進化をやめた西野JAPAN。目指すのは「パスを繋ぐサッカー」
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JFA(日本サッカー協会)はヴァヒド・ハリルホジッチ監督の解任を日本時間9日に正式に発表。後任は元技術委員長の西野朗氏が務めることが決定した。
ハリルホジッチ氏は従来の日本サッカーにはなかった“縦に速い攻撃”を目指し、デュエル(1vs1)でボールを奪ってから前線に長いボールやくさびのパスを入れてカウンターを仕掛けていくスタイルを採用していた。
自身の採用する戦術に適合する選手を見つけるため、海外組・国内組問わず今までに多くの選手を招集。特にEAFF E-1サッカー選手権や親善試合では、新戦力発掘のため結果よりもW杯本番を見据えた采配を振るってきた。
しかし、JFAは大会2ヶ月前という異例の時期にハリルホジッチ氏を解任を発表。
会見では「残り2ヶ月でどういうサッカーを目指す?」という記者の質問に対しJFA会長の田嶋幸三氏は「ボールを繋ぐサッカー」と解答。「これは私の意見だから」と続けたものの、ハリルホジッチ氏が目指したスタイルとは違う路線で本大会に臨む意向を示した。
それならば、ハリルホジッチ氏が積み上げてきた3年間とはいったいなんだったのだろうか。もちろん同氏が本大会で結果を残すことができたかどうかは誰にもわからない。しかし、日本が取り入れた新たなスタイルが世界の強豪を相手にどこまで通用するかどうかを検証できる機会は失われてしまった。
例えロシアの地で西野JAPANが結果を残せたとしても、それは偶発的なものであって積み上げたものからは何も得ることのできない、何も残らない大会になるだろう。それならばハリルホジッチ流の従来とは異なるサッカーで惨敗した方が得られるものは大きかったはずだ。
会長の言うような「パスを繋ぐサッカー」を戦術の軸としてチームを構成するのであれば、そもそもハリルホジッチ氏を招聘したこと事態が間違っている。
前回のブラジル大会で「このままでは勝てない」という意識が芽生えたからこそ、今までとは違う方向に舵を切ったのではなかったのだろうか。
この国は一度変化を求めて歩き出したのにも関わらず、再び歩みを止めてしまった。日本サッカーの未来に暗雲が立ち込める。
見せつけた"Fino Alla Fine”の精神
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運命という物はあまりにも残酷だ。
3点のビハインドを背負いながら挑んだUEFAチャンピオンズリーグ準々決勝2ndleg レアル・マドリー戦。前半のマリオ・マンジュキッチの2ゴールや、後半のブレーズ・マテュイディのゴールで一度は同点に追い付き2連覇中の王者をあと一歩のところまで苦しめた。
しかし、勝利の女神が微笑んだのはレアルの方だった。
後半終了間際のアディショナルタイム、疑惑の判定によりマドリーにPKが与えられる。さらに、これに抗議した守護神ジャンルイジ・ブッフォンはレッドカードを提示され退場。
交代で入ったヴォイチェフ・シュチェスニーの鬼気迫るセーブも虚しく、クリスティアーノ・ロナウドの放ったシュートは無情にもゴール右隅に突き刺さりトータルスコアは4–3。ユベントスはベスト8でこの舞台から姿を消すこととなった。
敗北というのはどんなときでも悔しいものである。しかし、この日の悔しさはいつも以上に重かった。恐らくブッフォンにとってキャリア最後となるであろうCL。彼は試合終了を告げる笛をピッチの上で聞くことすら許されなかったのだ。そんな彼のことを思うと涙が止まらなかった。
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しかし、悲しむことよりも他にやることがある。それは選手たちへの称賛だ。絶望的な状況に追い込まれても尚、わずかな可能性を信じて最後まで走りきり、クラブのモットーである“Fino alla fine”(最後まで)を体現してくれた選手たちへの。
ブッフォンの抗議に関して「みっともない」や「リスペクトに欠ける」などの声が挙がっているのをいくらか見かけた。「自身のビッグイアーを勝ち取りたいという欲がそうさせたのだ」と。
しかし筆者の意見としては、最後まで逆境をはねのけようと必死に戦うチームメートを「なんとしてでも勝たせてやりたい。一緒に勝ちたい」という想いがそこにはあったのではないかと思っている。
もちろんあの抗議の真意は本人にしかわからない。けれど、我々ユベンティーニがずっと見てきた“ジジ・ブッフォン”という男はそういう男だったはずだ。
たしかに今季のCLは終わってしまった。来季はブッフォンのいないチームで戦っていくことになるかもしれない。しかし、彼のメンタリティは確実にチームに受け継がれている。それはシュチェスニーが交代で出場したときのシーンを見ても明らかだろう。
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ユーベにはまだ2冠の可能性が残されている。リーグ7連覇、コッパ・イタリア4連覇。下を向いている暇はないのだ。気持ちをまた切り替えて前に進んでいくしかない。勝ち取れるものは全て勝ち取る、それが“ユベントス”というクラブだ。
シーズンはまだ終わっていない。気を引き締めて“Fino alla fine”、最後まで戦い抜こう。
これが偉大なるカピターノと共に戦う最後のシーズンになるかもしれないのだから。
コラム: 生涯をビアンコネロに捧げた男
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“ワン・クラブ・マン”という言葉はもはや死語となっているのかもしれない。1つのクラブでキャリアを終えるということは現代のサッカー界ではそう簡単なことではない。
ローマのフランチェスコ・トッティやリヴァプールのスティーブン・ジェラードなど、時代を象徴してきた名選手たちは次々とピッチを離れていってしまった。彼らの共通点はクラブに忠誠を誓い、数多のオファーを断り自クラブに全てを捧げてきたということ。
イタリア、セリエAに所属するクラブ・ユベントスにもそんな選手がいる。ビアンコネロの背番号8を背負うクラウディオ・マルキージオだ。
7歳でユベントスの下部組織に入団したマルキージオは着々と経験を積み実力をつけていく。06-07シーズン中には、当時カルチョ・スキャンダルの影響でセリエBを戦うトップチームに遂に招集される。すると、徐々に頭角を現し始めポジションを掴み取りチームのセリエA昇格に貢献した。
翌年、武者修行のため1年間エンポリへレンタル移籍。多くの経験を積んでユベントスに帰還した青年は順調に成長を重ね、やがてチームの要となる。中盤から飛び出し、相手ゴールを脅かす姿は多くのユベンティーニを虜にしたことだろう。無論、筆者もその内の1人である。
中盤でレジスタとして活躍した名手アンドレア・ピルロがチームを去った後はポジションを1つ下げ、パス回しの起点となりその役割を引き継いだ。
順風満帆なキャリアを送っていたマルキージオだったが、そんな彼を突然悪夢が襲った。15-16シーズンのパレルモ戦、スタメンとして出場していた彼は前半途中に左膝の前十字靭帯を断裂してしまう。この怪我が原因でEURO2016も欠場することとなってしまった。
当時の悲しみは今でも忘れられず、酷く落ち込んだことをよく覚えている。「マルキージオのいないEUROなんて見るか!」などと負の言葉を叫びながらも、しっかりとアッズーリの試合を毎試合チェックし応援していたのが懐かしい。
半年近く経った16–17シーズン。ようやくピッチに帰ってきた彼は以前よりも風格が出てきた印象があり、「どれだけリハビリを頑張ったのだろう」と想像すると目頭が熱くなった。
しかし、その後もいくつかの負傷を繰り返してしまい、なかなかトップコンディションに戻ることは出来ず、またチームメイトのミラレム・ピャニッチがアンカーとしてフィットしてきたことも重なり出場機会は減ってきてしまう。
17-18シーズン開幕前、ユベントスは中盤の選手として期待の若手、ロドリゴ・ベンタンクールやパリ・サンジェルマンやフランス代表で主力として活躍していたブレーズ・マテュイディをチームに迎えることとなった。
これに伴い、ある噂が浮上した。
「マルキージオ、ユーベ退団か」
このニュースを初めて見たときは「どうせ飛ばし記事だろう」と相手にしようとしなかったが、時間の経過と共に報道はどんどん加熱していった。それと共に不安も増していく。冷静に考えて同じポジションにこれだけのタレントが集まっていれば、出場機会が減少するのは明らかである。
正直そんな現実と向き合いたくはなかったが、それでも常に情報を追うようにしてSNSなどを頼りにマルキージオに関する報道をチェックし続けた。
そんなときに目に飛び込んできたのがマルキージオ本人による投稿だった。
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「言葉なんて必要ないだろ」
そんな一言と共にアップされていた写真にはクラブのエンブレムを叩く彼の姿が写っていた。
これにはさすがに涙抑えることができず一人で号泣したのをよく覚えている。恐らくこの出来事は筆者のみならず、世界中のユベンティーニの心を掴んだことだろう。ここまでクラブに尽くしてくれる選手は現代のサッカー界にはなかなかいない。
毎週マルキージオをはじめとする多くの選手たちから活気をもらっている。ならば恩返しと言えば恩着せがましいかもしれないが、それでも彼が辛いときは我々サポーターが支える番なんだと心から思った。
今年1月、ヴィノーボの練習場にはユベンティーニによってある横断幕が掲げられた。
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「マルキージオに触るな。キミはおれたちと一緒にいてくれ」
再燃したマルキージオの移籍報道についてサポーターからの抗議文だ。25年間という長い年月をビアンコネロに捧げてくれている選手の退団をユベンティーニは誰一人として望んでいない。
勝手ながら筆者は彼が再び実力でポジションを掴み取り、ユベントスのバンディエラとして、ユベントスでキャリアを終えるだろうと思っている。根拠はないが、彼を信じることに「言葉は必要ない」はずだ。