コラム: 偉大なるカピターノ ジジ・ブッフォンの門出

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(image@twitter )

 

  いつかはこんなときが来るとわかってはいたが、そんな現実からずっと目を背けていた。

 

  5月17日、アリアンツ・スタジアムで開かれた会見でアニェッリ会長と共に登場したユベントスの偉大なるカピターノ、ジャンルイジ・ブッフォンの表情からは笑顔が見てとれた。しかし、その笑顔からは覚悟を決め“何か”を受け入れたかのような、そんなどこか寂しい雰囲気も同時に感じることができた。

 

  「土曜日が私にとってユベントスでの最後の試合になるだろう」

 

  今年で40歳を迎えたビアンコネリの守護神は17年間というキャリアのほとんどを過ごしたクラブへ、選手として別れを告げることを発表した。

 

  11度のスクデットカルチョーポリにより取り消された2回を含む)獲得に貢献したブッフォンは、良いときも悪いときもユベントスと共に在り続けた。

 

  カルチョーポリによってセリエBへの降格を強いられた当時、多くの主力選手たちがチームを離れていってしまった。そんなチーム状況のなかで、クラブのレジェンドであるアレッサンドロ・デル・ピエロらと共に残留を明言し、多くのユベンティーニを安心させたエピソードは今でもファンの間で語り継がれている。

 

  「私の家はここだ。愛してくれる家族と運命を共にしたい」

 

  このようなパーソナリティを持ち合わせていることこそが、ブッフォンが今でも世界中のフットボールファンから愛されている所以なのだろう。

 

  試合に勝利したときはチームメイトを抱きしめ喜びを分かち合う。敗れたときでも対戦相手へのリスペクトを忘れず、相手の健闘を讃える。イタリア代表として試合に臨むときは国歌を全力で歌い上げる。対戦国の国歌へブーイングが入れば、自身の拍手でそれをかき消してしまう。我々の愛したジャンルイジ・ブッフォンとはそういう男だった。

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  ビッグセーブをしたときも顔色一つ変えず、親指を前に突き出しチームメイトに安心感を与える姿はユベンティーニにとってはお馴染みの光景となっていることだろう。最後尾からチームを支え、数々の偉業を成し遂げてきた彼はまさに“生ける伝説”だ。

 

  3度もCL決勝まで進みながらビッグイアーまであと一歩届かず、W杯優勝経験を持ちながらもキャリア最後のW杯には予選で敗れ出場できず。人目もはばからず泣いたことだって1度や2度ではない。勝利の美酒の味も知っているが、敗北の苦汁もたくさん味わってきた。だからこそ常に謙虚な姿勢を貫き、誰よりも勝利にこだわることができるのだろう。

 

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  主審の判定に激怒して退場となった今季のCL準々決勝2nd legレアル・マドリー戦はまさにそれを象徴していた。3点のビハインドを抱えながら乗り込んだサンティアゴ・ベルナベウでチーム一丸となって戦ったあの試合だ。

 

  最後まで集中を切らすことなく2連覇中の王者相手をギリギリまで苦しめ、敗退寸前まで追い詰めた試合。終了間際のベナティアのファールによってマドリーにPKが与えられたあのとき、真っ先に主審のところへ抗議に行ったのもブッフォンだった。

 

  あのシーンには色々批判の声も上がったが、ブッフォンだって人間だ。ビッグイアーへの最後の挑戦だった試合が微妙な判定によって終わりを迎えようとしていたのだ。怒るのも無理はない。むしろ、その泥臭く勝ちにこだわる人間臭さこそが彼の良いところでもあったのではないだろうか。

 

  たしかに、試合後も主審を批判し続けたのは過ちではあった。しかし、そのたった一つの過ちをとって彼の積み上げてきた偉大なキャリア全てを否定するのは大きな間違いだ。ブッフォンユベントスはもちろんのこと、現代のサッカー界に多くのものをもたらしたことは紛れもない事実なのだから。

 

  17年間をユベントスで過ごしたブッフォンには確かに勝者のDNAが流れていた。彼の体現した"Fino alla fine"(イタリア語で最後までの意)のスピリットは同胞のキエッリーニマルキージオへ。そしてやがてまた次の世代へと途絶えることなく受け継がれていく。

 

  前人未到のリーグ7連覇、セリエA無失点記録の更新、クラブ史上最多出場記録の更新などなど、ここには書ききれない程の偉業を成し遂げたブッフォンはまさにユベントスの歴史そのものだ。

 

  彼をきっかけにユベントスを好きになった人も少なくないだろう。筆者もその内の1人だ。このクラブを好きになる前から彼はユベントスゴールマウスを守り続けていた。

 

  時は流れ、そんな彼もクラブを去るときがやってきた。今は彼の退団を悲しむよりも、笑顔で送り出してあげることを考えよう。

 

  そしてジャンルイジ・ブッフォンという男がフットボールの世界に蒔いた種が、今後どのように芽吹いていくのか。それを楽しみに待ちながら彼の新たな冒険を見守っていこう。

 

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(image@juventusfc)

 

遠く離れた日本より、愛を込めて。

 

Grazie Gigi