期待のホープからビアンコネロのシンボルへ、宝石ディバラの冒険

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  「準備を怠るな。来季はおれたちと一緒に全てを勝ち取ってやろう。凄いことになるぞ」

 

  ベルリンからイタリアへと帰路につくユベントスの選手たちを乗せた飛行機の中でクラブのバンディエラ(旗頭)であるクラウディオ・マルキージオからそう声をかけられたのが当時21歳だったパウロ・ディバラだ。

 

  2014-15シーズン、12年ぶりにチャンピオンズリーグ(以下CL)決勝の舞台に辿り着いたユベントスはスペインの雄バルセロナ相手に善戦したものの、最後には力の差を見せつけられビッグイアーを目の前で逃してしまう。

 

  決勝の2日前にユベントスへの加入が発表されたディバラはこの舞台に招待され、VIPルームでビアンコネリの奮闘する姿を見届けた。

 

  La joya(宝石)と称されるディバラは当時所属していたパレルモでリーグ戦34試合に出場し13ゴール10アシストを記録。当時は「アグエロ2世」とも呼ばれ、狭いスペースでもボールを失わない卓越したテクニックと強烈な左足を武器にセリエAを席巻。その活躍がイタリア王者の目にもとまり、移籍金4000万ユーロ(約51億円)でユベントスの一員となった。

 

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  「パウロは偉大な選手になるだろう。移籍金9000万ユーロから1億ユーロ(約130億円)のメッシにも匹敵する選手にね」

 

  そう太鼓判を押すのはパレルモの名物会長マウリツィオ・ザンパリーニ氏だ。ユベントスマッシミリアーノ・アッレグリ監督が新加入選手を時間をかけてチームに馴染ませていく手法をとっている影響もあり、シーズン序盤彼が起用されないと「私はアッレグリに怒っている。彼が最高級のクラスの選手を台無しにしているからだ」と非難していた。このコメントもディバラへの期待の現れだったのだろう。

  実際、全世界のフットボーラーのデータや年俸など多くの情報を閲覧できる『transfermarkt』というサイトで現在のディバラの市場価値を見てみると、その額は1億1000万ユーロ(約140億円)となっておりザンパリーニ会長の見立ては正しかったことがわかる。

 

  彼がビアンコネリの一員となったこの年、4連覇中で絶対王者だったはずのチームは苦難の時期を迎えていた。

 

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  2015-16シーズン開幕戦、先発メンバーのリストに彼の名前はなくチームは史上で初めて開幕戦で敗北を喫した。その後も不調は続き第10節のサッスオーロ戦までで3勝3分け4敗で12位という体たらく。ディバラ自身も途中交代、途中出場での起用が多く充分な出場時間を得られずにいた。

  アルゼンチン出身であることや同じポジションであったことも含め前年まで10番を背負っていたカルロス・テベスとどうしても比べれてしまうこともあり、彼には前任者の幻影が常についてまわった。今思えば当時21歳だった若者が経験豊富なトッププレーヤーと比較され批判を浴びてしまうなんていうのは随分と酷な話である。

 

  しかし、サッスオーロとの試合に敗れた後、チーム全体でミーティングを開き結束を固めると翌節のトリノデルビーからチームは復調。そこから快進撃を続け破竹の15連勝を記録。ディバラ自身もコンスタントに出場機会を与えられその実力を存分に発揮した。

 

  順位表の中位を彷徨っていたチームは気がついてみればリーグの首位に立っていた。

 

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  翌季もチームは常に首位を走り続け、2位に落ちたのは第4節でインテルに敗れたときの一度のみと国内でもダントツの強さでセリエAを制覇してみせた。

 

  このシーズンの最も大きな変化といえば、従来の[3-5-2]システムから攻撃的な選手5人(ゴンサロ・イグアインパウロ・ディバラ、マリオ・マンジュキッチファン・クアドラードミラレム・ピアニッチ)を同時起用する[4-2-3-1]システムへと移行したことだろう。この新システムの中でトップ下という新たなポジションを与えられたディバラは崩しやフィニッシュの局面で異彩を放ち、チームの中心として攻撃を牽引した。

 

  また、CLでは母国の大先輩リオネル・メッシを擁するバルセロナと対戦し2年前の決勝のリベンジに成功。今度はVIPルームではなく、チームの一員としてピッチに立ったディバラはこの試合で2ゴールを挙げ、勝利の立役者となった。

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  この大会でユベントスはファイナルまで勝ち進み、決勝こそレアルマドリーに敗れたものの、冒頭に記したマルキージオの言葉をたった2年で実現可能なところまで辿り着いたのだから大したものだ。

 

  そして昨季、ディバラはある決断をした。

 

  「ミシェル・プラティニロベルト・バッジョ、そしてアレッサンドロ・デル・ピエロが背負った10番は、パウロ・ディバラのものになる」

 

  そう公表したのはクラブの公式ツイッター。彼はかつてユベントスのレジェンドたちが着けてきた栄光の背番号を継承する決意を固めたのだ。

 

  「僕にとって10番は特別だ。着るのは名誉なことだし、責任を伴う。この番号は僕の子供の頃からの夢だっただけでなく、毎試合勝利に導くためにさらに強い結びつきを感じることができるんだ」

 

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(image@juventusfc)

 

  エースナンバーを背負うことについて自身の想いを語ったディバラは2017-18シーズン開幕戦から驚異的なペースでゴールを量産。第6節までで2度のハットトリックを含む10ゴールを記録。ユベントスの宝石は真の輝きを放ちはじめた。

 

  しかし、コンディションの低下や新たに導入された[4-3-3]システムとの兼ね合いもありシーズン途中にはベンチを温めることもあったが、クラブ副会長のパベル・ネドベド氏は「この年齢では浮き沈みがあるのは普通のことだ。ユベントスはいつでも彼をサポートする」と彼を擁護。そのおかげもあってかシーズン終盤に向けて徐々に復調。3月のトッテナム戦ではチームをベスト8に導く値千金のゴールを決めるなど自身の復活を周囲に知らしめた。

 

  CLの準々決勝のレアルマドリー戦のときのように、ビッグマッチでは試合から消えてしまいがちなこともあるが24歳という年齢を考慮すれば伸び代はまだまだ充分にあるだろう。

 

  1人でも試合の流れを変えてしまうメッシと比較されるにはまだ時期尚早ではあるが、彼が世界ナンバーワンの称号・バロンドールを手にする日はそう遠くないかもしれない。

 

  残念ながら一部の報道では「ディバラはユベントスで偉業を達成した後にビッグクラブへとステップアップすることになる」とも伝えられている。

 

  近年ユベントスではデル・ピエロ以降継続して10番を着用し、クラブの象徴的な存在となる選手が現れていない。一サポーターとしては彼がそのシンボルとして長くクラブに居続けてくれることをただ祈るばかりである。

 

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  ユベントスの“宝石”はまだまだ輝き始めたばかりだ。迎える新シーズン、彼はビアンコネロのユニフォームを身にまとい、再び我々サポーターに感動を与えてくれるはずだ。今までのように。そしてこれからも。いつものようにその端正な顔立ちを“マスク”で覆いながら。