コラム : 去りゆくバンディエラへ愛を込めて、ユヴェントスの象徴クラウディオ・マルキージオとの別れ

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  「出会いの数だけ別れがある」

 

  これは例え天地がひっくり返ったとしても覆ることのない世の道理だ。

 

  2018-19シーズンを控えたこの夏、ユベントスフットボール界のアイコン、クリスティアーノ・ロナウドを筆頭に多くのスター選手を獲得した。

 

  しかし、誰かが来れば誰かが去っていくのが現代のフットボールの世界というもの。例えどれだけファンに愛されていた選手であろうが、どれだけクラブのために長年尽くした選手であろうがそれは例外ではない。

 

  ジャンルイジ・ブッフォンステファン・リヒトシュタイナー

 

  現在のユベントスの誇るセリエA7連覇という偉業。この始まりを築いた彼らは愛するクラブとの別れを惜しみながらも新たな挑戦のためにトリノの街を去っていった。

 

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  そしてセリエA開幕を目前に控えた8月17日、プリンチピーノ(“小さな王子“の意)の愛称で親しまれたユベントスバンディエラクラウディオ・マルキージオもまた25年間というとてつもなく長い時間を過ごしたクラブを去る決意を固めた。

 

  「ぼくはフットボーラーとしての人生をこの縦縞のユニフォームに捧げてきた。このユニフォームが何よりも大好きだ。このチームが優勝し続けることを信じている。いつまでも」

 

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  涙が止まらなかった。

 

  ユベントスで育ち、ユベントスのために全てを捧げた彼の退団を未だに受け入れたくない自分がいた。

 

  2015-16シーズンのパレルモ戦で負った左膝前十字靭帯の大怪我、あれが全てだったのかもしれない。

 

  本来のポジションから1列下げ、名手アンドレア・ピルロの後を引き継ぎレジスタとしてチームを牽引していくと思われた矢先の大怪我。復帰には半年近くの時間を要した。

 

  復帰後もコンディションは中々上がらず翌年には同ポジションにミラレム・ピアニッチ、その翌年にはロドリゴ・ベンタンクールの加入によってチーム内の序列はどんどん下がっていった。

 

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  それでも彼は腐らなかった。

 

  トレーニングには常に全力で励み、限られた出場機会でも鮮やかなロングフィードを見せたりと技術の高さをアピールし続けた。

 

  それだけでなくメンタル面でも彼はチームを支えてくれた。

 

  印象的だったのは昨季のUEFAチャンピオンズリーグ・準々決勝1st leg・レアルマドリー戦の後。ホームで0-3の敗北に加え、エースのパウロ・ディバラが退場処分によって2nd leg出場停止となったあの試合の後のことだ。

 

  絶望的な状況で2nd legを控えたユベントス。多くのメディアからも「逆転は不可能」と言われファンの間でも諦めムードが蔓延していた中でマルキージオは語った。

 

  「非常に厳しい状況だがチャレンジするために全てを出し尽くす。何故ならぼくらのメンバーに『もう終わった』と考えている者はいないからだ」

 

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  正にユベントスのスローガンでもある「Fino Alla Fine(最後まで)」を体現した言葉だった。

 

  例えどんなに最悪な状況でも自分よりもチームのことを最優先に考える。選手として、そして1人の人間として模範となる男だった。

 

  今までも何度も移籍の噂はあったが、彼はいつも笑ってそれを一蹴しファンを安心させてきた。

 

  「Sometimes, no words needed.(時には言葉は必要ないだろ)」

 

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  その一言と共に胸に輝くユベントスのエンブレムを叩く写真を載せた彼の投稿を見たときは心にグッとくるものがあった。

 

  ヴィノーヴォの練習場で現地のユベンティーニがフロント陣に向けて「マルキージオに触るな。キミはおれたちと一緒にいてくれ」と書かれたバナーを掲げたエピソードからも彼がどれだけファンに愛され、どれだけクラブにとって重要だったかが理解できるだろう。

 

  しかし、ユベントスというクラブで1人のフットボーラーとして生き残っていくには分が悪すぎた。

 

  前述した怪我からのコンディション不良、加齢と出場機会の少なさから生じた走力の低下に伴う守備への貢献度の低下。

 

  緻密な守備組織を構築するマッシミリアーノ・アッレグリ監督にとってこれは彼を試合に出せない充分すぎる理由となってしまった。

 

  今日、ユベントスは悲願となるCL優勝に向けて本気でチームを改革しようとしている。

 

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(image@juventusfc)

 

  マーケティング面を考慮した2017年のクラブエンブレム変更に始まり今夏のロナウド獲得。有望な若手を犠牲にしてまでも行われたワールドクラスの選手の補強。クラブは着々とビッグイアー獲得のための布石を打っている。

 

  ユベントスのことを誰よりも理解しているマルキージオだからこそ、クラブのプロジェクトを理解し、チーム内で序列の落ちてしまった自らの立場を受け入れビアンコネロのユニフォームを脱ぐ決意を固めたのかもしれない。

 

  「感情論だけで物事を語るのは甘い。ただ好きなだけでは勝てない」

 

  たしかにそうかもしれないが、ファンというのは大好きな選手たちと共に多くのものを勝ち取りたいと思うのが普通なのではないだろうか。

 

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  ただ勝つためだけに私情を挟まず上を目指すだけなら、そんなのは機械にでも応援させていればいい。

 

  もちろん今回のユベントスの改革を否定しているわけではない。クラブの出した声明やマルキージオ本人のコメントを見ればこの決断が身を切る思いだったのも伝わってくる。

 

  だからこそ、悲願の欧州制覇の夢を中途半端な形で決して終わらせないでほしい。あと一歩届かなかったビッグイアーをなんとしても獲得してほしい。

 

  それが我々ユベンティーニの願いであり、同時に義務でもあると思っている。

 

  何かを得るためには何かを犠牲にしなければならない。常にクラブのことを第一に考えて行動していたマルキージオとの別れ。今はとても辛いし、受け入れるのにも多大な時間を要するだろうがこれも噛み砕いて次に進んでいかなくてはならない。

 

  25年間というとてつもない時間をビアンコネロに捧げてくれたバンディエラに極東の地より愛を込めて。

 

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(image@juventusfc)


Grazie Claudio, Buona Fortuna.