コラム: いざ、最終章へ、いぶし銀トリオが紡いだ波瀾万丈物語

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  「三位一体」とはキリスト教の世界において父・子(イエス)・精霊の3体が独立性を持ちながらも1体の神であるという教えの事であり、3つの別々の要素が1つのもののように固く結びつくことを意味する。

 

  今シーズンからフットボール界のアイコン、クリスティアーノ・ロナウドを新たに迎えたことで世間からも注目を浴びているイタリア・セリエAのクラブ、ユベントスには正に“鉄壁”とも呼ぶべき1つの壁を形成する3人の戦士たちがいる。

 

  1人は一度は同国のライバルクラブに鞍替えするも批判を覚悟で戻ってきた実力は折り紙つきのディフェンスリーダー。1人はピッチに迷い込んだテントウムシを助け出すなど優しい心と分厚い胸板を併せ持つタフガイ。そしてもう1人は今シーズンからジャンルイジ・ブッフォンの後を引継ぎキャプテンとしてチームをまとめる闘志溢れるプレーが持ち味の熱血漢。

 

  彼らは「前人未踏の7連覇」というユベントスが紡いだ壮大な物語の序章を知る数少ない男たちであり、レオナルド・ボヌッチアンドレア・バルザーリジョルジョ・キエッリーニ、彼ら3人のイニシャルを合わせた“BBC”と呼ばれるディフェンスユニットは世界一堅固な壁として数多のアタッカーの前に立ちはだかってきた。

 

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  ユベントスは2010-11シーズンまではオーソドックスな[4-4-2]システムを使用していたが、7連覇の始まりとなる2011-12シーズンからは新たに指揮官として就任したアントニオ・コンテ監督によって[3-5-2]システムが導入されることとなった。

 

  これは同シーズンにACミランからやってきた稀代の天才レジスタアンドレア・ピルロを活かすためのシステムである。これに伴い後衛のバックラインは以前までの2人のセンターバックと2人のサイドバックから形成される4バックから3枚のセンターバックを並べる3バックへと変更されることとなった。

 

  同年、このシステム変更が功を奏しセリエA史上2チーム目となる無敗優勝という偉業、ならびに6年ぶり(カルチョーポリで取り消しにされた分を含む)となる悲願のスクデット獲得に成功する。そして、驚くべきことに同シーズンで戦ったリーグ戦38試合の内20試合でクリーンシート(無失点試合)を達成させている。

 

  また、シーズンを通しての失点数はたったの20。これはリーグ最小で1試合平均約0.5と驚異的な数字となっている。そしてこの堅守を支えたのが前述した3人のセンターバックボヌッチバルザーリキエッリーニだ。

 

  そう、後にBBCと呼ばれることとなる3人である。

 

  当時ミスの多かったボヌッチは3バックの中央に起用され始めてから徐々に安定感を増し、相手の動きを読んだ鋭いインターセプトや空中戦の強さを武器にチームのため奮闘した。

 

  バルザーリは優れた危機察知能力を持ち合わせ、カバーリングの技術に長けておりラインの上げ下げの判断も的確。ディフェンスの主軸としてフル稼働し守備の要として躍動した。

 

  キエッリーニはシーズン開幕前こそプレシーズンマッチなどで不用意なミスなどが目立ち批判を浴びていたが、対人守備の強さや気迫のこもった守備で敵のアタッカー陣を封じ込み、シーズンが終わってみれば「ユベントス復活の象徴」などと賞賛を浴び周囲からの評価を一変させた。

 

  このイタリア人トリオは代表チームでも苦楽を共にし、ゴールキーパー兼キャプテンを務めるブッフォンらと共にクラブ、イタリア代表の両チームで長きに渡り鉄壁を築きあげた。

 

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  そして、彼らの連携はシーズンを重ねるごとに円熟味を増していき2連覇、3連覇と国内で圧倒的な強さを誇る老貴婦人(ユベントスの愛称)の顔として最終ラインに君臨し続けた。

 

  ボヌッチが卓越したパスセンスでゲームを作り、キエッリーニが機を見てドリブルで持ち上がりスペースの回復のための時間を作る。例えそこで奪われたとしてもその裏のスペースはバルザーリがしっかりとカバーに入る。それぞれの特徴を活かし、それぞれの足りないものを補い合う。正に三位一体、理想の関係だった。

 

  やがてコンテ政権が終わり、2014-15シーズンからは新たにマッシミリアーノ・アッレグリが監督として就任した。彼はコンテの[3-5-2]システムを踏襲しつつも徐々に自らの色を出し基本システムを[4-3-1-2]システムへと移行させたが、それでも対戦相手によってはBBCを用いた3バックを採用するなど柔軟な采配を披露し、コンテの後を上手く引き継ぐことに成功した。

 

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  また、4バック時も右サイドバックバルザーリを起用したりとアッレグリ政権下でもBBCは色褪せることなく貴重な戦力として在り続けた。

 

  2016-17シーズン、カーディフで行われたレアル・マドリーとのUEFAチャンピオンズリーグ決勝では“BBC対決”と題され、最強の矛BBCガレス・ベイルカリム・ベンゼマクリスティアーノ・ロナウド)に最強の盾BBCがどう立ち向かうのかに注目が集まった。(結果は1-4で敗北)

 

  そして2017-18シーズン開幕を控えた夏、事件は起こった。

 

  ボヌッチミラン移籍、つまりBBCの解体だ。

 

  この夏、クラブはブレーズ・マテュイディドウグラス・コスタなどの実力者を獲得しビッグイアーに照準を合わせていた。また、偉大なるカピターノ、ジジ・ブッフォンのラストシーズンであるとも言われており、彼の最後を花道で飾ってあげたいというティフォージの願いも込められた大切なシーズンだった。

 

  そんな中で突然起きた裏切りにも近い移籍劇。この出来事に多くのユベンティーニが肩を落とした。

 

  実際ボヌッチの抜けた穴は強がりで誤魔化せるほど小さくなく、最終ラインからのビルドアップの質は明らかに低下した。このシーズンはメディ・ベナティアやダニエレ・ルガーニの台頭でなんとか乗り切ってはいたが、欧州の舞台で格上と対戦するときなどにはやはり彼の不在を嘆く者もいた。

 

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  そしてもう一つ。バルザーリの加齢による衰退だ。

 

  ディフェンスの要として長年チームを支えてきたバルザーリだったが、今やもう37歳。低下してしまった運動量や機動力はなんとかその豊富な経験値によってカバーしてはいるが、90分間をフルで戦えるほどのコンディションになく主に試合終盤に投入され守備を固めるクローザーとしての役回りが増えてきた。

 

  それでも要所では「さすが」と思わせる素晴らしい守備を見せたりと未だアッレグリにとって重要な選手の1人として数えられている。

 

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  この夏、クラブが2018年の夏で契約が満了となるキエッリーニと共に契約延長を発表したことも彼への信頼の表れだろう。前者は2020年まで、後者は2019年までの新契約にサインし新たなシーズンを迎える覚悟を決めた。

 

  そしてクラブはもう一つの契約をある選手と結んだ。

 

  そう、ボヌッチだ。

 

  前年ライバルクラブであるミランに移籍し、「裏切り者」のレッテルを貼られた彼を再び買い戻したのだ。

 

  当初は驚きの電撃復帰に困惑するティフォージも多かったが、彼の足下の技術は確かにチームに不足していたものであり、キエッリーニバルザーリと長年コンビを組んだ彼なら適応するのにもそう時間はかからないという判断だろう。

 

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  「ここに戻ってくることができて嬉しい。以前からのチームメイトや新しい仲間たちと共に新たな冒険に臨めることに興奮しているよ」

 

  この若干の図々しさも彼らしいといえば彼らしい。何はともあれ間違いなくこの補強はユベントスがビッグイアーを狙う上で大きな戦力アップとなるはずだ。

 

  1年の時を経てこれで再びユベントスの象徴でもあったBBCが揃うこととなった。

 

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  しかし、これが恐らく彼ら3人が揃う最後のシーズンとなるだろう。

 

  バルザーリが延長した契約は1年間。そもそも昨シーズンでの引退もにわかに囁かれていたほどであり、彼の年齢も考慮すればそう考えるのが妥当だ。


  今シーズンの基本システムは恐らく[4-3-3]、もしくは[4-2-3-1]。つまり4バックだ。このシステムで起用される2枚のセンターバックは恐らくキエッリーニボヌッチがファーストチョイスとなるだろう。

 

  BBC3人が揃ってピッチに立つ姿があと何回見れるかはわからない。控えにはベナティアやルガーニら頼もしい後輩も育っている。

 

  それでもやはり長年ユベントスというクラブに魅せられてきた1人のファンとしては彼ら3人が同時にピッチに立つ姿をあと少しでいいから見てみたい。途中出場でも構わない。7連覇という偉業の礎を築いた彼らの姿をあと少しだけ。

 

  ふとボヌッチミランへと旅立ったときのキエッリーニの言葉が蘇る。

 

  「全てのものはいつか終わりを迎えるもの。もちろん僕は引退するまで3人で守備をやっていくつもりだった。だけど、どんなことでもそのうち慣れるものさ。僕やバルザーリブッフォンだってその内は引退するんだからね」

 

  そう、例えどんなに立派に育った大樹でもやがては枯れ朽ちていくように、物事には必ず終わりがやってくる。それは彼らとて例外ではないのだ。

 

  バルザーリが、そしてBBCが紡いだ物語も遂に最終章を迎えた。彼らがこれから描くその物語の1ページ1ページをしっかりと脳裏に焼き付けながらこの1年を共に歩んでいきたい。

 

  Fino alla fine、最後までしっかりと。

 

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